KYOTO FIVE ROASTERS REPORT
#05
サーカスコーヒー
北区紫竹
Dongree's select bean
コンゴ共和国
チェガンダ2000
産地を想い、地元での暮らしに根ざした誠実なコーヒーづくり
サーカスコーヒー代表取締で焙煎士の渡邉良則さん。コーヒーの産地としても知られる、『東ティモール』で一時暮らしていたこともあるという、彼のコーヒー豆へのルーツは、海を越えて共有されるそれぞれの暮らしにありました。
今回、そんな渡邉さんのコーヒー屋として大事にしていることを、焙煎というお仕事を通して色々とお聞きしてきました。
最初に、コーヒー豆の自家焙煎を始めることになったきっかけから教えていただけますか。また、お店を開くまでの経緯も教えてください。
就職したのが、たまたまコーヒー焙煎のメーカーだったんです。そこで品質管理研究開発を担当させてもらうことになり、製品テストなど、マシンに関することをはじめ、コーヒー生豆の原料の品質管理や新しいブレンドコーヒーの開発などを行っていました。カッピングといって試飲して豆の味を評価したり、営業さんについて商談に行くこともあって、とにかくコーヒーに関するいろいろなことを勉強させてもらいました。その後、サステイナブルコーヒーを扱う自家焙煎のカフェに転職。そこではコーヒーを淹れたり、アルバイトさんを雇ったり、店のマネージメント・運営に関わる仕事をしていました。ただ、そのお店ではコーヒー豆の販売よりもカフェ業務の負担が大きく、なかなかコーヒーのことをお客様に伝えることができない状況でした。 そのときに、カフェをやることとコーヒー豆の販売は全く別のものだなと思ったんです。コーヒー豆のことをちゃんとお客様に伝えるには、コーヒー豆販売専門店として成立していなければいけないし、自分たちにとってコーヒー豆専門店としてのお客様との距離感がサーカスコーヒーのスペースにちょうど良いと感じています。豆屋ならちゃんと豆について説明できますし、お客さんもそのつもりで来はりますしね。
Dongree店主
「はい、僕もそのつもりで来ていました(笑) もともとコーヒーが好きで自家焙煎の豆屋さんを見つけては買いに行っていたのですが、3~4年前(※2017年2月現在)に対面でいろいろとコーヒー豆について教えてくれるお店は、当時そんなになかったんですよ。自家焙煎のお店はありましたが、豆専門でやっているのも珍しかったですし、自分でコーヒーを淹れる人にとってはすごくいい店だなと。この距離感で豆を焼いているのが見られるのは面白いなと思っていました。渡邉さんは、当初から対面式のお店にしたいと思っていたのですか?」
自分でお店をやりたいというのは、ぼんやり思っていました。元々この建物はお茶屋さんで日本茶の販売をしていたんです。実は私の実家がサーカスコーヒーの店舗の5軒隣りで、偶然ここが手放されることを知って、幼いころからこの建物の前を通って通学していて、この雰囲気がとても好きで、私の実家も西陣の機織りの家で古い町家ですんでいたこともあり、この建物を活かして残せていけたらと思ったんですね。そして、店をしながら家族で住めるし、実家も近い。当時は京都を離れていたので「京都に帰りたいな」というタイミングもあって、これは独立するタイミングなのかなと。特に物件を探していたわけではないのですが、ご縁ですね。
続いて、焙煎機について教えていただけますか。
フジローヤルの焙煎機で、一度に最大3キロ焙煎できます。以前の職場で私もよく使っていたメーカーでもあり味わいのイメージがつかめていて馴染みがありました。これも経験からですが、日本のメーカーだとメンテナンスが早いのも魅力でした。海外のメーカーだと部品を取り寄せるのに3週間かかることもあって、その間作業ができないのは困るので。フジローヤルは細かなオーダーにも対応してもらえて、基本の焙煎機はバーナー6本ですが、うちのは12本あります。なので、ノーマルの倍くらいの火力があるんです。あとバーナーと釜の距離を広げてもらって遠火の強火で熱気が回るようにしています。
Dongree店主
「なるほど。熱風に近い半熱風ですね。ドングリーでは、サーカスさんの豆はシングルオリジンで深煎りのコンゴ(※2017年2月現在)を扱っています。飲んだ後の余韻が甘く、この味はほかにないと思ったのが決め手です。僕も焙煎は趣味でやっているのですが、中深以上を狙うと焦げてしまうことが多いんです。コンゴも焦げてしまうとちゃんと甘さが出ない。でも、それを一定のクオリティで焙煎されているのは本当にすごいなと毎回感じ入ります。渡邉さんは豆の焼き加減が見られるよう、照明もご自分で設置して、細かくチェックされてますよね。ドングリーのお客さまの中でも、コーヒー豆を焼く専門家、つまり焙煎屋さんというものを知らない人も少なくないので、こうして店頭で焙煎しているところが見られたり、「生豆はこんな感じですよ」って見せてもらったりできるのは貴重ですし、ありがたいことだと思います。」
渡邉さんが日々焙煎をされていて、
一番面白みのある瞬間はいつですか?
この豆だったらこの焼き加減でこんな味になるかな、おいしいかなという考えが実際に焙煎してバシッとはまったときは楽しいですね。実際は合わない方が多いですし、難しいです(笑) 初めての豆を扱うときは焼き方をいろいろ変えて試してみます。私は、より消費者に近いところでコーヒー豆の魅力を伝えたいと思っているんです。
例えば、私の焙煎技術がいいからコーヒーがおいしくなっているわけではなく、元々豆がいいものなんですよ。農園まで行きたいとは思いますが、私の仕事は、生豆を探し出すというより、世界中のコーヒー生産国の方たちが手をかけて育ててくれたコーヒー豆を、焙煎して商品化・販売するという形でより多くの日本の消費者の方々へコーヒーの魅力を伝える役割だと思っています。また、コーヒーに今あまり興味のない方にも、飲まれる方が美味しいと思っていただけるよう焙煎の研究を続け、コーヒーの魅力を伝えていけたらと思っています。
Dongree店主
「コーヒー業界で最近よく言われている「fromシードtoカップ」(※種子から一杯のコーヒーになるまで誰もが手を抜かずに仕事をするからおいしいコーヒーになる)という言葉がありますが、ある人は「fromビーンtoカップ」と言っていて、それってコーヒー豆からカップに行くまでを責任を持って仕事をして、それ以外のことは任せるという意味なんですよね。潔く、自分がするべき部分はここだって絞ることで仕事の質も上がると思いますし、そういう考え方もいいなと思います。」
ロースターさんの中には、シングルオリジンにこだわっているところも多いですが、サーカスコーヒーさんはブレンドも提供されています。そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
特に私にとってブレンドは、コーヒー店として当たり前の感覚ですね。
それはやはりブレンドにしか出せない味があることを、経験的に知っています。スペシャルティのようにある程度いい豆だとある程度経験のある方が焙煎すればそこそこのコーヒーは出来ると思っています(笑) あとは「こういう味を作りたい」という思いがあって、シングルでは出せない味をブレンドで追及していくことが、私自身楽しいところでもあります。サーカスコーヒーでは毎日飲みたくなるような味をイメージして、5種類の豆をブレンドしています。個性的な豆は面白いんですけど、個性が強いと毎日飲めませんよね。ブレンドもオールスペシャルティの豆を使っていますが、「サスティナブル」(※持続可能な栽培をしている)という意識の方が強い。いい豆を使いたいと思って選んだら、それがたまたまスペシャルティだったという感覚です。
(奥様)
先日、台湾のコーヒーファームに行って、チェリーの状態を見せてもらったんです(※コーヒーの実は赤く熟してサクランボのようになることから「コーヒー・チェリー」と言われる)。そこでは全部がマイクロロット(※少ない量で豆を混ぜることなく、丁寧に管理されたコーヒー)で高品質な豆が揃っていたのですが、値段がすごい(笑)豆の値段に台湾の人件費が加えられていて、ちゃんと対価に見合った価格になっているので、コーヒー豆が200g1万円、1杯に換算すると1000円ちょっとするんです。
Dongree店主
「スペシャルティとブレンドは、実は、僕の中では相反するものだと思っていました。スペシャルティコーヒーを大事にするなら、個性を平らにしてしまうブレンドはまた違うのかなと思っていましたが、いろいろな豆をブレンドして、結果スペシャルティの農園に利益が回るという考えなら、確かにスペシャルティのブレンドもいいなと、今お話を伺って少し意識が変わりました。」
輸入したコーヒーの方がよっぽど安い。でも遠い国だとそこまで意識が行かないけれど、自国で作って飲むとその辺りが見えていいですよね。それが正しい値段で流通しているということだから。またバリスタチャンピオンで優勝したお店も台湾にあったのですが、そのカフェでのコーヒーの提供の仕方が印象的で、コーヒーはカップ&ソーサーと別に小さなワイングラスに入れて提供されたんです。「ワイングラスの方は冷めてから飲んで下さい」って。見た目が素敵なことはもちろん、良いコーヒーは冷めてもおいしいということを押し付けではなく、「冷めても美味しい」ってさり気なく飲み手に気付いてもらう提供の仕方は上手だなぁと感銘を受けました。
コーヒーを飲む人の意識改革が少しでもできたらいいなと思っています。今コーヒーに興味のない人や、コーヒー苦手やなと思っている人も含め、コーヒーを飲む層をもっと増やしていきたいですね。「コーヒー分からんけど、可愛いな。なんか美味しいなぁ」と手に取ってもらえることはすごい大事に思っていて、そのためにもパッケージデザインにはこだわっています。より沢山の方に飲んでもらうことによって、コーヒー1杯の中で、いろんなことが世界で起こってるんやって、そこに関心を持ってもらいたいですね。そうすると普段飲むコーヒーの味も変わってくると思うんです。
Dongree店主
「いい豆は冷めてもおいしいっていうのを伝えたくて僕らも淹れているけれど、なかなか難しいと思っていました。そのスタイルなら、温度でコーヒーの味が変わるんだよっていうことも伝わるし、ワイングラスからコーヒーは果実だということも伝わって、すごく良い演出ですね!」
渡邉さんが今後、
挑戦してみたいことはありますか?
Dongree店主
「自分の出したい味、というよりかは、
コーヒー豆の持つ個性を引き出し、飲む人が美味しく感じるように調整するのが自分の仕事、 という渡邊さんの言葉が印象的でした。
それがスペシャルティコーヒーを「飲みやすく」するためのブレンド作りにも見えた気がします。
どのような形であれ、原産地で丁寧に作られたスペシャルティコーヒーを選び、飲んでくれる人が増えれば、そこから産地へと利益につながり、より良いコーヒー生産・流通につながる。
そうした産地への利益還元と、地元の人が毎日美味しく飲めるコーヒーを意識した、フェアで優しいロースターさんだと改めて感じました。 」